東京高等裁判所 昭和27年(う)3403号 判決
被告人 加藤鉄作
〔抄 録〕
原審第二回公判調書中の証人A、同B、同Cの各供述記載及び原審第三回公判調書中の証人Dの供述記載とを総合すると本件賍物故買及び古物営業法違反の各事実は賍物たる真鍮棒四本の形状及び重量の点を除きこれを認められないわけではない。ところで、右形状及び重量の点については、原審第二回公判調書中には証人Aの供述として、検察官の尋問に対し長さ二尺二、三寸直径八分位のものと述べ、弁護人から再びその長さを問われると「判然覚えありませんが二尺五、六寸位かも知れません」と答え、さらに原審の検証調書中には立会人Aの指示説明として「真鍮棒は長さ一尺六、七寸で全部の重量が二貫五百匁位」と述べた旨の記載があるから、右各供述記載の相違から考えてみると、Aの右各供述記載中、真鍮棒の形状及び重量に関する部分はその全部が真実に合致していないものかも知れないし、かりに、そのどれか一つが真実に合致しているものとしても、右のうち、どれが正しいのかは容易にこれを判別することができず、また、原審で取り調べたその他の各証拠中右真鍮棒の形状及び重量に関する部分はいずれも措信しがたいと思われるのである。
およそ、賍物罪に関する犯罪事実を判示する場合賍物の品質、形状、重量、価格等の点をできうる限り具体的詳細に判決に表示することは、望ましいことであるけれども、いやしくも、その賍物の何たるかが特定される程度に判示すれば足るものと解せられるから、本件真鍮棒のごときもその形状及び重量等について証拠上これを正確に認定することが困難であるときは、その概要のみを記載すればよいものと考えられるし、Aの右各供述記載中各真鍮棒の形状及び重量の点について曖昧な点があるのは、同人が真鍮棒等についての知識、経験が乏しかつたため、その形状及び重量等を正確に記憶していなかつたことに起因するものと考えられるから、この点についての各供述が曖昧であるからといつて、同証人の各供述中、右以外の部分についてもこれを措信できないものとするのは当らない(同証人の各供述中同人が真鍮棒四本―形状及び重量の点を除く―その他を窃取した上、これを被告人方に持参してその買取方を求め、被告人がこれ等物品を買い受けたとの事実に関する部分は筋がとおつていてこれを措信すべきものと考えられ、原審において取り調べた各証拠中、右供述に反する部分はたやすく信をおき難い)のであつて、要するに、原審はさらに進んで必要な証拠調を施行することによつて起訴状記載のような賍物故買及び古物営業法違反の各事実(尤も、真鍮棒の形状及び重量の点について若干の相違が生ずることは予想されるけれども、この程度の差異は被告人の防禦権に実質的な不利益を及ぼすものとは考えられないから、この点については訴因変更の手続を要しないであろう)を認定することができた筈である(当審での証拠調の結果、即ち、証人Aの当審尋問調書中の同人の供述記載及び当審の前記川中島工場大工作業所材料置場並びにその附近の検証調書中の記載を綜合すると前記真鍮棒四本は、それぞれ長さ約二尺、直径約一寸であつて、Aは右作業所の棚にあつた真鍮棒四本を繩で結わえ一旦これを土間におろし、更に探して来た繩でその二ケ所を縛り直し、着用していたオーバーの内側右わき下にはさむようにして右手で持ち、オーバーの上から左手で押えてこれを右工場の外へ持ち出したことが認められる)。されば、原判決には事実の誤認があつて、その誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかであり、本件検察官の控訴はその理由がある。